2010年1月17日日曜日

「IT投資マネジメントの発展」韓国語版、出版、序

国版への序
 文明はアジアに発し、西洋と新大陸を経て、再びアジアにもどってくると予言した学者がいた。まさしく、それが、現実になってきた。21世紀がアジアの世紀であるといわれて久しいが、とりわけ昨年のリーマンショック以降の欧米の低迷と新興諸国の成長を前にして、新しい時代を想起させるさまざまな転換、パラダイムシフトが現実になってきた。もはや、アジアの世紀は、決して誇大な表現とはいえないだろう。
 日本の古代史を勉強すればすぐわかるように、アジアの端に位置する日本は、中東、中国など、大陸からの膨大な知識や技術を、朝鮮半島を経由して、そして朝鮮の人々の往来の中から学んできた。稲作、仏教、法律、制度、鉄や銅の製造などである。まさしく、日本の発展は、朝鮮半島の支援なくして起こり得なかったといってよい。
これまで、日本から生産システム、経営手法などの知識、技術が移転されてきたし、韓国からも多くの製品が日本市場に投入されるなど、まさしくアジアの時代は、新たな韓日関係を軸に切り開かれてきたのである。
今、世界は不況から立ち直りつつある。日本がまず韓国から学ぶべきは、そのダイナミックな企業経営マインドとスピード感であろう。また、日本からは、成熟した改善マインドと仕組みつづりのこだわりと周到さを学んでいただけるだろうか。まさしく切磋琢磨しつつ協調するパートナーシップの時代になったのである。
このような時期にIT投資をめぐる最新の理論と日本における実践に関する研究を著した本書が韓国においても出版されることは、韓日のパートナーシップを象徴するものであり、意義深いことである。
本書で述べるIT投資マネジメントとは、大規模かつ複雑化するITプロジェクトへの投資に関して、合意形成モデル、リアルオプション、戦略マップ、インタンジブルズ・マネジメントなどのさまざまな手法や概念を駆使し、IT投資による成果を最大化するための実践的なフレームワークである。
 伝統的なIT投資マネジメントは、事前の経済性評価を中心とし、いくら投資したら、効果はいくらなのかを議論していたが、多くの論者が指摘するように、IT投資がカバーする領域は広範であり、投資と効果の因果関係の定式化は多くの困難が伴う。私たちは、困難であることを認めたうえで、それを乗り越えるための、より効果的な方法論を模索してきた。それが、戦略的IT投資マネジメントのフレームワークであり、いかにして戦略的IT投資の価値を利害関係者間で合意することが成果を最大化する有効な方法論であることを提起してきた。
 本書が目指す戦略的IT投資とは、企業の戦略目標を効果的に達成するための支援としてのIT投資であり、さらに、前もって整備すべきさまざまなインタンジブルズへの投資を意味する。したがって、戦略的IT投資の意思決定は、従来のような評価手法によって行われるべきではなく、限られた資源を有効活用し、ITの価値を十分生かすことを重視するアプローチを取るべきである。本書の狙いはまさにそこにある。
翻訳にあたっては、本書の著者のひとりであり共同研究の核になっていただいている金先生が基本的作業を行い、もっとも信頼する知人である弘益大学の申先生が丁寧に監修され、格調高い韓国語に表現していただいた。2人に心より感謝したい。
本書が韓国の多くの読者に読まれ、韓国におけるIT投資がより大きな成果をあげ、産業と経済の発展にすこしでも貢献できることを願っている。