2009年7月12日日曜日

不況下のIT投資マネジメント

IT投資マネジメントが、ITの経営への貢献や効果の最大化を目指すものであるならば、昨年来の金融危機に発するIT投資の急減速という事態をどのように捉えるべきだろうか。新しい事態を考慮してIT投資マネジメントを進化させるべきではないか。
企業において、今、生じている状況を確認してみよう。現在、ほとんどの企業において大幅なIT費用削減が行われている。経済的採算性の厳密な追究よりも、支出自体を抑えようとする経営的意図が如実である。したがって、従来的な意味でのIT投資マネジメントは役に立たないかのように、IT費用/売上高比率などの単純な方法が用いられている。
最近のASP(Application Service Provider)やSaaS(Software as a Service)、さらにクラウドコンピューティングの進展は、従来の初期投資回収型モデルから、IT費用を変動コストとしてみる変動費型モデルへの転換を促している。しかし、固定的な費用を削減することが最優先なのであろうか、まだ、成果があがっていない。
多くのCIOは、安易な削減が後々まで負債として企業に悪影響をもたらしかねないことを懸念している。その一方で、ERPなどの基幹システムの導入や更新は企業のグローバル化のなかで避けることはできないとして、戦略的な投資を続けている企業は、ROIよりも限られた資源のなかでの投資優先順位づけを行うポートフォリオ手法を重視している。
業績拡大期においては、IT投資はそれほど重要ではなかったためか、経営が直接関与することなく現場任せで十分だったかもしれない。この不況期こそITガバナンスを根付かせる好機かもしれない。ITのガバナンスの本来の目的は、統合化、共通化による全体最適(費用対効果最大化)にある。この機に、①従来のシステムを停止も含めてゼロベースで見直す、②関係会社も含めてIT支出を本社管理下に置く、③IT部門や要員を一箇所に集め、関係会社の裁量でのシステム開発を最小限にする、④削減した資金を有効活用し、グローバル業務の統合やとITの統合を行う、などと見直しを行った企業もある。
業務変革を伴う情報システム化には、人の削減が伴いがちなため断固反対という意見も噴出する。とりわけ大企業では、機能組織が複雑にからみあい、ITによる業務固定化のため変革が困難になっている場合も多い。
IT投資の増減が、経営管理層の生き残りのパワーゲーム、政治的な行動に巻きこまれているケースもある。利益を出せと迫ることで案件を過小評価し消滅させようとする恣意的な行動も見られる。
ROIを算定することは、情報システム部門にとって経営者に対するアカウンタビリティとしても重要であるが、政治的な議論になればなるほど、ROIは無視されやすい。しかし、ROI算定は、経営上の意思決定のための情報提供というよりも、IT投資の計画段階で内容を突き詰めるために、お互いの当面のメリットを確認し、長期展望も共有する合意形成のために、あえて算定することの重要性を強調し続けなければならない。
計画段階で経営課題としてきちんと議論しておかなければ、後から経営の視点での投資評価や、優先順位付けが困難になり、経営戦略を支援することはできなくなる。政治的なゲームによって意思決定された情報システム化が企業に貢献することはありえないことは当然である。